*日経サイエンス新年特別号 、「技術で革新 鮭,カキ,ムール貝の養殖 米メイン州の挑戦」の海洋環境を勝手に解説④*

「技術で革新 鮭,カキ,ムール貝の養殖 米メイン州の挑戦」でふれられているこの海域の海洋の描像について勝手に記述していくシリーズ第4回です。

日経サイエンス2月号、p104 左下~中央上には、

“メイン州の海岸線は入り江や湾が深く入り組み,川から注ぎ込む水が冷たい海水と混ざり,栄養分を底から汲み上げている。二枚貝にとって楽園だと思われるかもしれないが,冷たい水は諸刃の剣だ。海洋は世界の二酸化炭素排出量の30%を吸収しているが,気体がより多く溶けるのは冷水なので,冷たい水はより多くの二酸化炭素を吸収して酸性度が高くなっている。メイン州の河川や河口域の酸性度が上昇すると,二枚貝など軟体動物の殻を蝕む恐れがある。”

と、あります。これについてみていきましょう。

川から海へ水が注ぎこむところでおこっていること

前回、メイン湾への河川水の流入量は少ないと書きましたが、下の地図のようにいくつかの大きな川の河口があります。

メイン州の川と湖にダマリスコッタ川を赤で加筆

中央下側に小さな短い赤い線で書かれている部分が記事内で牡蠣とムール貝の養殖で紹介されているダマリスコッタ川です。ダマリスコッタ川は長さ30㎞ほどの川でダマリスコッタ湖を源流にしています。川と呼ばれていますが、リアス式海岸の入江に近く、淡水と海水が混じり合う、潮の満ち引きによって淡水と海水の勢力が変わるような水域です。
河川の淡水と海水は密度が違い、河川水が流れ込む場所では下図のように、軽い河川水が海水の上を流れようとする際に、下の海水を引きずり巻き込むようにして水がまざり合います。また、河川水によって水が沖合に運ばれて行くのを補償するように栄養豊富な海水が岸へと運ばれます。この淡水と海水の流れの様子を“川から注ぎ込む水が冷たい海水と混ざり,栄養分を底から汲み上げている”と書かれているのだと思います。

海水の二酸化炭素濃度と酸性化について

大気と海洋の間では海面を通して二酸化炭素の吸収や放出が行われています。もともと二酸化炭素は大気に含まれる窒素や酸素よりも水に溶けやすい性質を持っていて、海水温が低いほど、また、海が荒れているほどよく溶けます。メイン湾に流れ込むラブラドル海流やその源流のラブラドル海は低温なので二酸化炭素をよく吸収します。また、p107 左下で、”メイン州沿岸は嵐になると30 ~ 36mの暴風が吹き荒れる。貝はロープからはがれ落ち,筏は壊れてしまうのだ。”と言及されているように荒れる海で、二酸化炭素がとけ込みやすい環境がそろっています。

2021年の海洋による二酸化炭素吸収量
高緯度の冷たい海域ほど吸収量が多い(青色)。
赤色は海洋から大気への二酸化炭素放出域。
気象庁|海洋の二酸化炭素のデータ 海面の二酸化炭素・pHの分布図 (jma.go.jp) より


大気から海洋に吸収された二酸化炭素は、海水中では多くが炭酸になり、炭酸水素イオンや炭酸イオンとして存在します。この過程で水素イオンが放出され海水中に増えるため、pHが低下して酸性化がおこります。

*海洋酸性化の殻をもつ生物への影響とは*

二枚貝などの生物の殻や珊瑚などの骨格は炭酸カルシウムで出来ています。殻をもつ生物は、海水中のカルシウムイオンと炭酸イオンを利用して殻を作っています。しかし、海水が酸性化し水素イオン濃度が高くなると炭酸イオンが水素イオンと結合する反応が増えることで炭酸イオンの濃度が下がってしまいます。カルシウムイオンとの反応が抑えられるため、炭酸カルシウムの殻を作りにくくなってしまうという影響があると考えられています。

つづく