*日経サイエンス新年特別号 、「技術で革新 鮭,カキ,ムール貝の養殖 米メイン州の挑戦」の海洋環境を勝手に解説⑤*

「技術で革新 鮭,カキ,ムール貝の養殖 米メイン州の挑戦」でふれられているこの海域の海洋の描像について勝手に記述していくシリーズ第5回です。

今回が最終回です。最終回に取り上げるのは、直接的に海のことではないのですが海に関わることで書かれていた2つのことです。

日経サイエンス2月号、p104 中央中ほど

“孵化場を流れる川の酸性度が上昇したのが原因だった。成長したカキの殻も軟らかくなった。大雨で水かさが増したときは特にそうだった。”

そして、p107 左下

“メイン州沿岸は嵐になると30 ~ 36mの暴風が吹き荒れる。貝はロープからはがれ落ち,筏は壊れてしまうのだ。”

ふたつめは前回も少しふれていますが、これらについて見ていきましょう。

川の酸性度の上昇と大雨

メイン湾の海水は河川水よりもpHが高く、河川からの淡水が混ざるほどpHが下がります。メイン州沿岸の雨水や雨による流出水のpHは5かそれよりも低くく、大雨によって多量の水が川や海に流れ込むとその水域は酸性化がすすみます。記事中の“成長したカキの殻も軟らかくなった。”というのはpHの低下によって殻が溶解したということかもしれません。*1
また、酸性化とは関係なくメイン州では1日の降水量が2インチ(約51mm)をこえると陸上の汚染物質の流入から公衆衛生を守るために、沿岸域を自動的に貝類の採取禁止区域としています。禁止期間は3~4日程度であることが多いようです。

メイン州沿岸の嵐のこと

メイン州沿岸を含むアメリカ北東部や、カナダの大西洋沿岸では“ノーイースター(Nor’easter)*2”と呼ばれる嵐が吹き荒れます。

ノーイースターの衛星画像
What is a Nor’easter? (weather.gov) より

ノーイースターを引きおこす低気圧はメキシコ湾やフロリダ半島近くの暖かい海上で発生し発達しながら北東に進みもっとも発達した状態でやってくると移動速度が下がり停滞するという厄介な低気圧です。沿岸部には北東風や東風が吹きよせ高波や高潮をおこします。
映画『パーフェクトストーム』の題材になった海難事故の原因の低気圧もこのノーイースターです。

*1 海洋生物の炭酸カルシウムによる殻の作りやすさの指標には、アラゴナイト飽和度があります。アラゴナイト飽和度は溶存無機炭素、アルカリ度、pH、塩分、水温などから求められ、基本的にpHが低下するとアラゴナイト飽和度も低下します。理論上、アラゴナイト飽和度が1を下回ると殻の溶解がおこると考えられています。研究によるとアラゴナイト飽和度が1.5を下回ると殻に悪影響が出始めるということです。

*2 Nor’easter の名前の由来は、沿岸域への暴風が北東方向(northeast)から吹き寄せるためです。上の写真にみられるように反時計まわりの渦である低気圧が海上を南から近づいてくると、白く濃い雲の形からも分かるように沿岸部の暴風は北東方向からになります。

おわり