*時間を旅する水*

旅する水の最後の話題は、過去の気候を記録している水のお話しです。
南極やグリーンランドに広がる氷河は、過去数十万年の間に降った雪が重みで圧縮され氷になったものです。氷のサンプルは下へ行くほど過去に降った雪で出来ています。どのくらい昔までさかのぼれるかというと、南極では氷河を約3000m掘り進んで、およそ80万年前の氷まで到達しています。ですからこのような氷の事を”気候の化石”と表現する研究者もいます。

この氷となった過去の時代の雪は、当たり前ですが、水から出来ています。この中の重い水の割合から、その当時の気温を調べることができます。

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どうして調べることが出来るかというと、
蒸発して雲となった水は冷えてくると再び凝結して、雨や雪となって降ります。この時、重い水の方が凝結しやすい性質を持っているので、先に降ってきます。さらに冷えるとまた雪や雨となって降るということが繰り返されます。水蒸気が極域に向かう時に、どんどん冷やされて何度も降水があるほど雲の中は重い水が減っていき、極域での降水は軽い水の割合がとても大きくなります。ですから、気候が寒冷な場合ほど極域の降水は軽い水の割合が大きくなり、温暖な場合は寒冷な場合ほど途中で雨や雪を落とさないので、軽い水の割合は寒冷な場合ほど大きくなりません。

このことを簡単にまとめると、氷の中の重い水の割合が大きいのなら、その当時の気候は暖かく、重い水の割合が小さいなら、気候は寒かったと考えられるのです。