“氷の水は清らかな水”

――北極域に住む人々の水事情

北極域に関するさまざまなことに興味があってゆっくりと調べて学んでいます。まだまだ発展途上なのですが、一度アウトプットしておこうと思いました。
そういうわけでこれから時々北極関連のことを書こうと思っています。

北半球で最も寒い場所、寒極があるとされる東シベリアのオイミャコン村などがある地方では、主に牧畜を行う人々が暮らしていて、季節の移ろいといった自然のリズムを繊細に取り入れた生活をしています。

日本に暮らす私たちは四季、春夏秋冬の四つを季節として認識していますが、こちらの地方では、季節は2~3週間くらいの長さで移り変わるものと認識されていて、その時々に行う暮らしの作業が細かく決められています。例えば、牧畜を生業にする人々ですから、飼料とする牧草を刈る時期や、育てた牛や羊を屠畜する時期などが季節を基にした年間スケジュールとなっています。屠畜する時期が決まっている理由の一つは、自分達の食用とする肉は冷蔵庫で保管するのではなくて、寒風にさらして干し肉にして保存しているので、そういう作業ができるくらい、肉が腐ってしまわないような低温で乾燥した時期に行っているのです。そして、その後には飲料水を確保する時期がやってきます。大切な飲料水の確保をどのように行っているかを紹介します。

少人数が点在して暮らす集落は、地面は少し掘り進むと永久凍土が広がっているような場所なので、日本に住む私たちが使っているような水道をひくような事はコストの面でも技術的にも難しいのです。そういう環境独特の飲料水の確保の仕方というのがあります。
飲用に使う水は冬の初めの時期に、ちょうど切り出して運びやすい厚さに結氷した湖から氷を切り出してきて、それを融かして使います。この時期に切り出して貯蔵したもので一年間の飲料水を確保するのです。
この地方には、

氷の水は清らかな水

という言葉があるといいます。
実は、自治体として水道に代わるシステムとして、給水車による給水システムというのも存在していて、水を蓄えておくドラム缶に旗を立てておくと、‘水を入れて下さい’という合図になっていて、定期的にやってくる給水車が水を入れてくれるそうです。しかし、集落に住む人たちにとっては、その水は美味しくなく、人気がないということです。

氷の水は清らかな水

確かに液体が結晶化することで不純物が分離される現象は、化学の分野で利用されています。水が結晶化する、つまり氷になるときも、水の分子だけが手をつなぎ合って成長していくため、凍結は水を浄化したり、融けているミネラル分を分離して飲みやすい軟水にする効果があります。このことを、この地に住む人たちは経験的に知っていて、それが言い伝えられてきたのかもしれません。

最近では、自分たちの美味しい氷の水を都市に売り込むというビジネスも起こっていて、好評なのだとか。極域は気候変動に敏感な場所で、そこに暮らす人たちは文明社会の割を食っているイメージが私にはありました。もちろんそういう部分はあるのだと思います。そして温暖化によって少しずつ、繊細に設計された暮らしのリズムが乱れ始めていることもあるでしょう。しかし、この氷ビジネスのお話は厳しい気候の中で長年暮らしてきた人々の強くしたたかな面がうかがい知れて明るい気持ちになります。