*日経サイエンス新年特別号 、「技術で革新 鮭,カキ,ムール貝の養殖 米メイン州の挑戦」の海洋環境を勝手に解説②*
「技術で革新 鮭,カキ,ムール貝の養殖 米メイン州の挑戦」でふれられているこの海域の海洋の描像について勝手に解説していくシリーズ第2回です。
前回は海域の全体像について書きました。今回からが本番です!
日経サイエンス2月号、97ページ中央下には、
“冷たく栄養豊富な海水,そして栄養を海面から海底まで行き渡らせる非常に強い潮流だ。「ここの沿岸水域は生産性が非常に高い」。”
とあります。これについて見ていきましょう。
冷たく栄養豊富な海水 とは
前回書いたように、メイン州の沿岸海域は冷たいラブラドル海流が流れています。ラブラドル海流の源流域であるラブラドル海はカナダ北西部とグリーンランドに挟まれた海域です。高緯度から南下してくる寒流が冷たいのは当然として、栄養豊富なのは以下の理由からです。
・ラブラドル海では冬季に冷たい大気によって海洋表面が冷却されることで上部の水が重くなり、対流がおこって深いところの水と混合するため。
・ラブラドル海に面するグリーンランドの西岸域には、海洋の深いところから水が湧き上がってくる湧昇という現象がおこっているため。
海の深いところの栄養豊富な水が上の方の水と混ざることで、その場所は上から下まで全体が栄養豊富な海水になります。海の深いところで栄養が豊富になるのは、生物の死がいが微生物に分解され栄養分になることと、光がとどかないために、その栄養分が植物プランクトンに利用されず残るためです。
ふたつめのグリーンランドでの湧昇現象について、もう少し詳しく何がおきているかを説明してみようと思います。
グリーンランドには末端部が陸地で終わらずに海域に入り込んでいる氷河があります。海底まで達する氷河からは融解水が海底へと流出していますが、その水は低温ではあるけれど淡水なので軽く、湧き上がっていきます。その際に海底付近にもとからあった水も一緒に巻き込んで上昇します。そのため栄養豊富な水が海の上の方まで運ばれるのです。
このような理由で流れる海流自体が多くの栄養分を持つのです。
非常に強い潮流 とは
メイン湾は潮位差が大きいことが知られています。特にメイン湾の一部で湾の北東に位置するファンディ湾は潮汐の干満差が世界一を争う湾です。干潮時と満潮時で最大15mも海面の高さが変わります。*1 海面の高さがそれだけ変わるために、1100億トンもの水が1日2回出たり入ったりしています。
メイン湾は海岸線だけをみると大きく開けた湾のように見えますが、海底地形をみると大西洋への開口部には浅瀬が広がり、いくつか狭い水路があることがわかります。
下の図はモデルで再現されたメイン湾内の潮汐エネルギー*2の流れの大きさと向きをしめしています。この図では大西洋から潮汐エネルギーがメイン湾に入ってくるところが描かれています。
海底地形でみた狭い水路のうち、おもに中央の最も深い水路を通して潮汐のエネルギーが湾内に入り、突き当りで大部分が右へ曲がってファンディ湾へ向かい、残りは反時計回りに湾内をめぐっています。先に書いた膨大な量の水が狭い水路を通って湾へと入っているということで、とても速い潮流が存在していることが見てとれます。
このような水路での速い潮流は、渦をつくるなどして海水を上下に混合し、栄養を海面から海底まで行き渡らせます。
生産性が高いとは
栄養豊富な海水があったとして、植物プランクトンが光合成できる水深まで栄養分が届くことではじめて利用することができます。植物プランクトンが増えて、それを食べる動物プランクトンが増え~という食物連鎖を経て海域に生物が増えていくことが出来ること、これが生産性が高いということです。
*1 干満差はいろいろな理由で変化しますが、湾の場合は奥行きの長さなどの形と水深によって決まる水面の上下する周期と潮汐の周期の関係によるところが大きいと考えられています。両方の周期が近いと干満差は大きくなります。日本では有明海が干満差が6mと他の場所よりも大きいのもこのためと考えられています。
*2 潮汐エネルギーは潮汐で生じる海面の高さと流れから求められます。この図ではメイン湾の潮汐のうち主要な成分である月と地球の引力によっておこる半日周期(M2)によるエネルギーの流れが描かれています。潮汐にはほかにも太陽と地球の間の引力によるものや、半日以外にも日周期やもっと長い周期のものも存在しています。
今回はここまでです。
まだまだ続きます・・・