*日経サイエンス12月号*

10月24日発売の日経サイエンス12月号。ノーベル賞の詳報がこの時期ならではですが、特集は「縄文以前の人びと」です。
3万年以上前、海を越えて日本列島に渡った人たちの航海を最新の考古学・海洋研究から読み解きます。

「見えない島を目指した航海を追う」では3万年前に手漕ぎの丸木舟で台湾から沖縄県の与那国島を目指した実験航海のことが書かれていました。

実は随分前ですが、少し似たような計画に関わったことがあり、興味深く読みました。

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2021年に世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、紀元前13,000年から紀元前400年までの間の17の遺跡からなるものです。

北海道南部と東北地域に分布する遺跡からは津軽海峡を挟む2つの地域に交流があったことがわかっています。それで、前述の台湾と与那国島のように丸木舟で渡ろうというイベントが発案されたのでした。

台湾と与那国島の航海は、そこを流れる黒潮の流れを利用したようですが、津軽海峡の流れは日本海側から太平洋へ流出する津軽暖流であり、この東向きの速い流れは青森県から北海道へ海峡を横断する計画には障害になるものでした。

津軽海峡を流れる津軽暖流の平均的な流れは東向きなのですが、これに潮汐に起因する流れも無視できない大きさで存在していて、潮汐による流れ(潮流)は月や太陽の作用で起こるものなので予想することが可能です。
丸木舟で津軽海峡を横断するイベントを行うのに適した気候の良い時期の週末や祝日で潮流が津軽暖流と逆向きで海峡内の流れができるだけ穏やかな日を計算から導き出す役目を私は担いました。

その時に個人的に気になっていたのは、おもにこの遺跡に人が暮らしていた時代は今よりも海面が上昇した「縄文海進」と呼ばれる時期であることと、現在のような海流が出来上がったのは8000年前であったので、仮にいま丸木舟で海峡を渡れたとしても当時とは違う環境での挑戦になっているということでした。

しかし、こちらの実験航海では過去の海況がどうであったかをシミュレーションで確かめたうえで行われたものということで、より信頼性のあるもののようです。

私の地元、北海道に暮らす人の中には、数代前の先祖が日本のどの地域から来たのか、ルーツを探ることに興味をもつ人がいます。
私の父と母も、かつてそうした旅をしたことがありました。

それをもっと大きなスケールでたどるのが、「日本人の祖先はどこから来たのか?」という問いなのだと思います。
きっと多くの人が関心をもつテーマではないでしょうか。

日経サイエンス Scientific American の日本語版ともいえる雑誌ですが、今回の特集は日本オリジナルです。
科学的知見と日本のルーツが交わる、読み応えのある内容でした。