*日経サイエンス10月号記事・取材の裏話*

『日経サイエンス』10月号の誌面では研究成果を中心にお届けしましたが、ここでは取材を通じて感じた協力者の方々の“横顔”を少しだけご紹介します。


● 研究グループのリーダー・黒田さん
赤潮という突発的で深刻な現象のただ中で、冷静に解析を積み重ね、理解を着実に進めてこられたのが印象的でした。
それは単なる知的好奇心ではなく、「被害に苦しむ人を助けたい」という思いに根ざした取り組みであることが強く伝わってきました。
取材後のメールでうかがったところ、今年で赤潮発生からちょうど4年。ウニが市場に出せる大きさに育つまで4年かかるとのことで、被害後の本格的な出荷がようやく始まります。黒田さんはそのことを心配しつつも、同時に楽しみにしていると話していました。

● 赤潮発生中の海洋調査のリーダー・谷内さん(専門:植物プランクトンの生理生態)
赤潮発生時の調査航海の責任者。周囲への目配りが素晴らしく、お話から当時のチームの熱気が生き生きと伝わってきました。
とりわけ印象的だったのは、短期間に多くの成果を出しつつも、役割を“決めすぎない”運用だったこと。各自が自然に力を発揮し、黒田さんのリーダーシップと若手研究者の活躍が相まって推進力になっていた、と強調されていました。

● 生態系モデルで発生要因に迫った髙木さん(当時は黒田さんらのチーム在籍)
偶然にも赤潮が起きた頃に合流。そこで初めてモデル解析を学び、数カ月あまりで論文にまとめたというエピソードが語られました。
黒田さんが楽しそうに「とにかく吸収力と集中力が高い」と話していたのが印象的。短い在籍期間ながら、チームに大きな刺激を与えた存在だったそうです。

● 赤潮原因プランクトンと動物プランクトンの関係を研究した大西さん
黒田さんは当時を振り返って「やると言って、ちゃんとやってくれた」と信頼を寄せます。
一方で若手研究者はキャリア形成上ほかの課題に集中する必要もある――そんな状況下で取り組んだ研究が学会での賞に結実。難しい条件の中での成果だったと、谷内さんも評価していました。

東京大学・岩滝先生(赤潮原因プランクトン研究の第一人者)
今回の原因プランクトンについて、形態の特徴から遺伝子解析による同定の難しさまで、丁寧に教えてくださいました。
誌面に載せきれなかった話題も多彩で、学名に刻まれた研究者の名前の由来や、今回初観察の“透明細胞”に関する仮説など――専門的視点からの自由な語りに、研究の奥行きを感じました。