*日経サイエンス9月号*
発売中の日経サイエンス9月号で担当した記事を紹介します。

「なし崩しで始まった深海底採鉱 パプアニューギニアの現場ルポ」を担当しました。
2024年6月、パプアニューギニアの領海内で、他国性の人材を有するマゼラン社が塊状硫化物鉱床の採掘試験を実施しました。
乗船取材した記者は、最新の技術で進められる採掘作業や環境モニタリングの様子に目を見張ります。
けれどその一方で、近隣の漁民の多くは採掘の事実すら知らされていないという現実も。
このプロジェクトは誰が、いつ、どのように認可したのか——
政府の手続きは不透明で、住民への説明も不十分なまま進められていました。
深海底資源の開発で得られる富は、それによって失われるかもしれないものに見合うのか?
著者はその問いを読者に投げかけます。
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記事の内容からは少し離れますが、日本も国家戦略として海底鉱物資源の開発に取り組んでいます。
採掘前の丁寧な環境調査や、国際的なルールづくりへの貢献を通じて、持続可能で透明性のあるモデルを目指しています(このことは記事中でも少し取り上げられています)。
そうした日本の姿勢が、今後の国際的な海底資源開発のあり方に良い影響を与えてくれることを、個人的に願っています。
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記事のカバーに大きく描かれているのは採掘のためにつかわれる装置の「クラムシェルバケット」と呼ばれる部分です。海底に差し込まれて2枚貝の殻のように口を閉じて中の堆積物を海上へ持ち帰ります。
この装置、実は記事の最後のイラストにも登場します。
そのイラストでは、海上に引き上げられ、舷側に吊り下げられたクラムシェルバケットが描かれています。
一見普通の船上風景ですが、よくみると
水平線に素朴な船で漁に出ている漁師が小さく描かれているんです。
だまし絵のようなクラムシャルバケットと漁師の位置関係から、記事内の疑惑や懸念をイラストが鮮やかに表現していることに気がつきます。まさに百聞は一見に如かずと言ったところです。
こうした視覚的な語りかけは、本文の言葉では触れられていない部分までも補完し、ときに読者の感じ方そのものに影響すると思います。
科学記事におけるイラストレーションの力を改めて感じました。